「う」は、うまいものの略である。
この抽斗をあけると、さまざまの切り抜きや、栞が入っている。
焼きあなごの下村、…
<中略>
仕事が一段落着いたら、手続きをして送ってもらいたいと思っている店のリストである。【向田邦子「う」『霊長類ヒト科動物図鑑』より引用】
向田邦子が仕事の合間の楽しみとして集めたお取り寄せのリスト。
それを収めている「う」の抽斗が主役のエッセイで、トップバッターを務めたうまいものが「焼あなごの下村」だった。
調べてみると兵庫県明石市で現在も営業していることがわかった。
嬉しいできごとだった。それに兵庫県出身の私にとっては思いがけず鼻が高い話である。
向田邦子は下村の焼あなごの味にはふれていないが、どうして数ある「う」の中から一番最初に書いたのだろうか。
「う」の抽斗を開けて最初に目についただけなのだろうか。それとも彼女にとって一番のうまいものだったのか。はたまた一番気の張る相手から贈られたものなのか。想像は膨らむばかり。
せっかくなので本店を見に行った。
真夏の暑い時期だったからなのか、駅から随分と歩いた気がした。
看板を見つけ、喜んで駈け寄ったら、とっくに営業は終了していた。
看板を眺めるだけ眺めて、また出直すことにした。
皆様も訪れる際には時間にお気を付けください。
※この記事は、過去に運営していたブログ「向田邦子「う」」より移行させました。管理人及び筆者は同一人物です。
コメント