封を切ったとたんに「あっ」と思った。
このところ…といってもほんのここ数年のうちに食材から香りが消えている気がする。
大葉や木の芽、スダチはどこか水っぽく、しめじ、舞茸、椎茸はだんだんと区別が付かなくなってきた。
自分の味覚が鈍ったのだろうか。こころなしか心配になってきた矢先にこれと出会う。
京都は永楽屋の『一と口椎茸』。
向田邦子がうまいといったという噂を聞きつけ、言ってしまえばご近所の範疇なので、さっそく本店へ買いに出かけた。
京都市中京区河原町通四条上る東側。京都特有の住所を持つ「永楽屋」本店。
佃煮の専門店だと思っていたが、店内には梅雨の晴れ間に似合う涼しげな和菓子も並んでいた。
一と口椎茸は、お試しのつもりで一番小さな包みを選んだ。
お会計をするとき、柔らかい物腰の「おおきに。」が印象的だった。ずっと関西で暮らしているが、はじめて本物の「おおきに。」を聞いた気がする。
100gの『一と口椎茸』は、真空パウチされていた。
ハサミで端をちょっと切ると、椎茸の香りがフワッと香る。久しぶりに嗅ぐ椎茸の香り。
嬉しかった。自分の味覚は正しかったと思った。
土鍋で炊いたごはんにのせて、一口かじる。コックリとした歯ごたえ。お醤油と椎茸の香りがほどよく広がる。
からすぎず甘すぎず、白ごはんにはもちろんだが、スライスして素麺の薬味、細かく切ってスパゲティの具材にもよさそうだ。
私としては、日本酒に合わせたい。
大吟醸もさることながら、ここはあえて辛口本醸造で勝負をしたい。ガツンとくる酒のうま味に負けず劣らず華やかな香りをプラスしてくれることだろう。
余らせてはいけないと選んだ100gは「あっ」という間に食べ終えた。
『うまい』お気に入りが、また一つ増えた。
一と口椎茸が登場する向田作品
※この記事は、過去に運営していたブログ「向田邦子「う」」より移行させました。管理人及び筆者は同一人物です。
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