パルックおじさん

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15年ほど前に実家を出る時、姉と一緒に不動産屋をまわった。

何軒も訪ねて、ある街の駅前でやっと相談に乗ってくれるお店を見つけた。

そのお店のおじさんはとても親切で、いつもにこにこしていて、たくさん物件を紹介してくれた。

私たちはそれが嬉しくて、そのおじさんに親しみを込め、頭のフォルムと雰囲気から『パルックおじさん』というあだ名をこっそりつけた。

パルックおじさんのおかげで、無事に部屋が決まり、引っ越しの日になった。家族総出で荷物を運び、片付けも一段落したあたりで、姉と買い出しにでかけた。

二人で歩いていると、駅前で声をかけられた。知らない街で誰だろうと振り向いたら、いつもの笑顔でパルックおじさんがこちらに向かって歩いてきた。

よく見ると、おじさんは両手にパルックボールを一箱ずつ持っていた。

その時におじさんとどれくらい話しをしたのか、何を話したのかは全く覚えていない。ただひたすら吹き出しそうになるのを我慢してその場をしのぎ、別れた瞬間、興奮しながら姉に確認した。

「お姉ちゃんも見たやんな?パルックおじさん、パルックボール持ってたやんな?」

姉は茫然として、ただ何度もうなずいていた。

最近になってこの事件を思い出したとき、きっと誰にも信じてもらえないだろうなと思った。でもそれはどうしても悔しいので姉にメールを送った。

『パルックおじさんって覚えてる?』

しばらくして返事が来た。

『うん。覚えてるよ。どうしたん?』
『パルックおじさん、パルック持って立ってたよな?』
『そうそう。ダブルパルックアタックやな。懐かしいわ。』

ダブルパルックアタックってなんだ…。姉の返信が適当すぎて、確実な証拠は得られなかった。

証拠なんて一つもないけれど、私の記憶は間違ってない。

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