謝花きっぱん店-向田邦子「う」

当ブログは記事内に広告が含まれます

私は何といっても「きっぱん」が好きだった。形は平べったい大き目の饅頭で、まわりは白い砂糖がけ、アンは細く切った果物の砂糖漬である。猛烈に甘くほろ苦かった。<中略>沖縄と聞いて胸がさわいだのは、「きっぱん」が食べられるかも知れないと思ったからだ。

【向田邦子「沖縄胃袋旅行」(女の人差し指/文春文庫)より引用】

国際通りの市役所前の入り口から東へずんずん歩いていくと『松尾』という交差点がある。そこを右に曲がって緩やかな坂道を登っていくと右手に白い建物が見えた。

「謝花きっぱん店」。向田邦子が沖縄で訪れたというお店。

初めて訪れるには少し勇気のいるような小ぢんまりとした店構えだった。

ショーケースを眺めていると、
「試食をどうぞ。」
と声をかけられた。

向田邦子のきっぱんの話を読んだとき、正直、『これは食べてみたいとは思わないな。』と思った。

果物の砂糖漬けと言えば、辛いくらいに甘く、ぬちゃっとしていて歯にくっつくような触感をイメージしたからだ。『まあ、昔は甘いものが少なかったし、こういうお菓子は子どもには美味しく感じたのでしょう。』というふうに解釈していた。

だがそのイメージは、試食をしたとたんに吹っ飛んでいった。

私は、あんなに爽やかな砂糖漬けを食べたことがない。歯触りはシャリっとしていて軽く、鼻に抜ける柑橘系の香りと程よい甘さの後にかすかな苦みが味全体を締めるようにやってくる。

向田邦子が書いていた”猛烈に甘く”の印象は、時代とともに薄まっていくのかもしれない。

店内には、向田邦子が来店した時の雑誌の切り抜きやら写真やらが置いてあった。30年以上前に、向田邦子がタクシーの窓から見つけた『きっぱん』の文字は、この店のもので間違いないようだ。

向田邦子思い出の沖縄土産「きっぱん」

そもそも、甘いものが好きではない私にとっては、向田邦子を知らなければ、きっぱんと出会うことはなかっただろう。食べてみようとも思わなかっただろう。

大げさかもしれないが、これもご縁だなと思った。

銘菓継承 謝花きっぱん店【公式サイト】

※この記事は、過去に運営していたブログ「向田邦子「う」」より移行させました。管理人及び筆者は同一人物です。

コメント